この記事の内容
介護・保育・看護の現場で働く人と話していると、辞めたい理由よりも先に、 「でも他に何ができるか分からない」という言葉が出てくることがよくあります。 これは能力の問題ではなく、自分の仕事を言葉にする機会が無いまま来てしまったことの問題だと思っています。
まず前提の確認です。介護労働安定センターの「介護労働実態調査」によると、 2023年度の介護職員の離職率は13.1%で、調査開始以来もっとも低い水準でした。
「介護はみんなすぐ辞める」という語られ方をされがちですが、数字の上ではむしろ改善傾向にあります。 これは、辞めたい人が我慢しているという意味ではなく、 待遇改善や職場環境の見直しが一定進んだ結果として読むのが自然です。
「業界全体がダメだから逃げる」ではなく、「今の職場が自分に合っていないだけかもしれない」 という可能性を先に潰しておくと、判断の精度が上がります。
介護の仕事は、業務の幅が広いのに、履歴書に書ける形の「実績」に変換しづらい特徴があります。 売上や件数のような数字が出にくく、日々やっていることが当たり前になりすぎて、 本人にとってスキルとして意識されないためです。
つまり「できることが無い」のではなく、 できていることが言葉になっていない状態です。ここは分解すれば解決します。
日常業務を、他の職種でも通じる言葉に置き換えてみます。
| 現場でやっていること | 他の職種での言い方 |
|---|---|
| 利用者・家族への状況説明 | 相手の理解度に合わせた説明・折衝 |
| 申し送り・記録 | 情報共有ルールの運用、記録の標準化 |
| 急変時の対応 | 優先順位の判断、緊急時のエスカレーション |
| 新人指導・OJT | 教育、業務手順の言語化 |
| シフト・人員調整 | スケジュール管理、リソース配分 |
| 多職種連携 | 部門間調整、チームでの合意形成 |
右側の言葉は、事務職・営業事務・人材コーディネーター・カスタマーサポートなど、 介護以外の求人票にも普通に出てくる要素です。 「何もできない」ではなく「この6つのうち、どれが得意で、どれが嫌いか」で考えると、次の方向が見えやすくなります。
施設形態(特養・老健・訪問・グループホームなど)が変わるだけで、 働き方も人員体制も大きく変わります。 「介護そのもの」が嫌なのか、「今の職場のやり方」が合わないのかを切り分けるのが先です。
介護福祉士、ケアマネジャー(介護支援専門員)などの資格要件を満たせる状況なら、 同じ業界内で身体的負担の少ない役割に移る道があります。 受験には実務経験年数などの要件があるため、まず自分が要件を満たすかの確認から始めます。
福祉用具、医療事務、人材コーディネーター、生活相談員など、 介護の現場経験がそのまま評価される仕事があります。 現場を離れつつ、覚えた知識が無駄にならない選択肢です。
未経験の業界に移る場合、年齢によって選択肢の広さが変わります。 20代であれば、未経験可の求人に絞った就職支援サービスの対象になることが多く、 職種転換のハードルは相対的に低くなります。
棚卸しの前に、ひとつだけ確認しておきたいことがあります。 眠れない、食べられない、休みの日も動けない——そういう状態が続いているなら、 それは「向いているかどうか」を考える段階ではありません。
キャリアの判断は、判断できる状態でするものです。 消耗しきった状態で下した決断は、 あとから「あのときはああするしかなかった」という納得の仕方になりやすく、 次の職場でも同じ形で追い込まれることがあります。
年次有給休暇を使って、まず休む。 それでも戻らないなら、医療機関や、勤務先の産業医・衛生管理者に相談する。 自治体や労働局にも無料の相談窓口があります。 辞めるかどうかは、そのあとで考えても遅くありません。
逆に、休んだら少し戻った、という場合は「限界」ではなく「負荷」の問題です。 負荷なら、下の分解で打ち手が見つかります。
「経験を言葉にする」と言われても、何から書けばいいか分からないと思います。 次の手順でやると、だいたい30分で形になります。紙でもスマホのメモでも構いません。
3番目が肝心です。指示された作業だけを書くと「誰でもできること」に見えますが、 自分で判断して変えたことは、そのまま職務経歴書に書ける材料になります。 現場で働いている人は、必ず何かしら自分でやり方を変えています。 それが記憶に残っていないだけです。
利用者さんの氏名・病名・家族構成など、個人が特定できる情報は書かないでください。 棚卸しはあくまで「自分が何をしたか」を書く作業です。 職務経歴書に守秘義務にあたる情報を書いてしまう例は、実際にあります。
棚卸しと並行してやっておきたいのが、辞めたい理由の分解です。 この3つは打ち手がまったく違うので、混ぜたまま決めると次でも同じことが起きます。
| 理由の種類 | 例 | 有効な打ち手 |
|---|---|---|
| 人 | 特定の上司・同僚との関係、指導の仕方 | 異動の希望を出す/同じ規模の職場を避ける |
| 働き方 | 夜勤の回数、シフトの組まれ方、身体的な負担 | 施設形態を変える(夜勤の有無が変わる) |
| 仕事内容 | 介護そのものが合わない、記録より現場が好き/その逆 | 役割を変える/隣接業界へ移る |
「働き方」が理由なら、業界を変えなくても解決することがあります。 形態ごとの違いは特養・老健・訪問・デイの記事で整理しました。 具体的にどこで探すかは、仕事の探し方のページにまとめています。
どの方向を選ぶにしても、最初にやることは同じです。 辞める・辞めないを決める前に、自分が何をやってきたのかを紙に書き出すこと。ここからです。